「姓が先か? 名が先か?」
- 西村 正
- 2019年11月10日
- 読了時間: 3分
唐突で何の話かと思われたかもしれないが、これは欧文表記における日本人の名前の書き方のことである。思えば私は小学校の頃からこの問題に関心を持っていた。家庭科の時間に裁縫道具入れにイニシャルを刺繍することになったとき、TNとすべきかNTとすべきか迷い、不本意ながらTNを受け入れたものの、それ以来ずっとそのことが気になって仕方なかった。「不本意ながら」と断ったのは、先生にそうするように言われた記憶はないのだが、当時すでに子供ながらにイニシャルというものは 「名+姓」の順に書くものだという「常識」を共有していたからだと思う。しかし、その後、世界のいろいろな国の名前について知るようになるにつけ、自分のこだわりは決して間違っていなかったという確信を持つに至った。ハンガリーでは日本と同じく「姓+名」の順に名乗るということや、モンゴルでは姓がなくて名だけなのだが、慣習として、ロシア語の父称のように自分の名の前に父親の名を添えるということを知った。また、中国人や韓国・朝鮮人は欧文で名前を書くときも「姓+名」の順に書いているのに、なぜ日本人だけがあえて名前をひっくり返すのかという疑問を抱き続けてきたのである。
この度、日本政府が「これからは欧文での日本名表記は姓を先にする」と決めたことには賛意を表したい。なぜ今までこの問題を放置してきたのかという不満はあるが、やっとあるべき姿に戻ったという感慨を感じる。ただし、私もこれまでこの問題では多少の混乱を経験したことがあった。以前イギリスを旅行中に銀行で “Nishimura Tadashi” とサインしたところ、”Mr Tadashi” とアナウンスで呼ばれたのだ。米国人等のタレントの中には自分の名前をあえて「姓+名」の順にしている人もいて、かえって混乱を招く場合もあるようだから、これは些細なことのようでいてかなり重大な問題だと言えるだろう。
このブログにこのようなテーマを取り上げたのは、叔父・西村俊郎のサインもやはり「名+姓」を基本としていたからである。叔父のサインは “TOSHIRO” が一番多いが、”TOSHIRO N.” や “NISHIMURA” も少数ながら存在する。「俊郎」と縦に書いたものもある。私は、ローマ字を使うと無意識に「名+姓」になってしまうことを非難しようとしているわけではない。友人の中には、ローマ字表記の場合はむしろ積極的に「名+姓」としている者もいた。その友人は「日本人はもっと個人を大切にして姓より名を尊重して、それを先に名乗るべきだ」と主張していたのであった。私はその意見を面白いとは思うが賛成はし兼ねる。しかし、「姓が先か、名が先か」というのは文化として深い根をもっているものなのだと思う。ハンガリー人やモンゴル人の例もあるのだから、「名+姓」が世界の「常識」だと言うことはできないだろう。今回はちょっと美術と関係ない話のように思われるかもしれないが、絵画作品のサインを眺めながら考えたことなのである。 (2019.11.10)
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