あゝ上野駅
- 西村 正

- 2018年12月19日
- 読了時間: 2分
更新日:2019年3月24日

改札口上の壁画は、
猪熊弦一郎「自由」(1951年)
東北・上越・北陸方面行き新幹線の東京駅延伸によって東京の「北の玄関口」だった上野駅は大きく変わったが、この絵だけは今も昔のままだ。私は1952年生まれだから、この絵は私が生まれる前から上野駅の中央コンコースに壁画として飾られていたことになる。この絵の向こう側にある、いわゆる「低いホーム」はヨーロッパの終着駅のようなどん詰まりのホームで、北への旅の旅情を搔き立てるに十分な佇まいを持っていた。うちのように北国から東京にやってきた家族にとっては、井沢八郎の「あゝ上野駅」に歌われているように、上野は今でも「心の駅」なのである。
叔父が亡くなった年の夏、私は母と二人で当時まだ運行されていた寝台特急「北斗星」に乗って納骨のために小樽へ向かった。なんとその便はその日に限って小樽行きだったので、これも何かの縁かと考え深いものがあったのだが、途中で何か車輛のトラブルがあったらしく、札幌止まりに変更されたというアナウンスがあってがっかりしたことを覚えている。小樽から洞爺湖経由で東京に出てきた叔父を故郷に送るには最も相応しいルートだと思っただけに、今思っても本当に残念でならない。
さて、この絵の作者、猪熊弦一郎(1902~1993)は叔父より7歳年上で、やはり90歳まで生きた人であるということを今回調べてみて初めて知った。私にとっておそらく人生で一番見慣れた絵のはずなのに、これまで細部を注意深く見たことはなかったし、「自由」というタイトルも初めて知った。仏画を思わせるような不思議な絵である。いいとか悪いとか、好きとか嫌いとかいうことを超越して、この絵は私にとってすっかり上野駅のシンボルとなっている。 (2018.12.19)
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