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叔父の思い出(3): アトリエに集う画家たちのこと

  • 執筆者の写真: 西村 正
    西村 正
  • 2018年8月24日
  • 読了時間: 3分

更新日:2019年2月10日

 幼い頃、私はアトリエのドアの鍵穴からこっそり中を覗いたことがあった。叔父と同年輩の画家が数人集まって若い女性モデルを囲んで「裸婦」というものを描いているということは知っていた。談笑しながらやっているときもあり、ドア越しに楽しそうな笑い声なども聞こえてくるので、子ども心にも好奇心をそそられたのである。アトリエの中が克明に見えたわけではないが、モデルがハダカで長椅子に横たわっていることを確認するとすぐに一抹の不安が心をよぎったのを覚えている。それは、近所の子供たちに「お前の家ではオッサンたちが集まって女のハダカを眺めているだろう」と言われたらどうしよう!?というものであった。

 その記憶とともに名前を憶えていた画家たちのことを私は最近ふと思い出してインターネットで調べてみた。みんな叔父とほぼ同年代だから、当然ながら全員故人である。勿論インターネットの情報が全てではないが、次の各氏については情報量の差はあれインターネット上に名前を見つけることができた。M氏は叔父と生年が同じで没年は叔父より1年後である。彼は当時から禿げていてよく喋るオジサンだったが、石仏などに非常に関心を持っていた。叔父は人生の途中から日本の画会に嫌気がさしたのか、「無所属」になってしまったが、M氏は最後まで画会に籍をおいていたこともあってそれなりの処遇を受けたようだった。九州出身の彼は故郷の市立美術館に作品を収めていることが判った。F氏は東海地方の出身だが、70歳にならないうちに他界してしまった。M氏のように「故郷の公立美術館に作品を寄贈」というような情報は得られなかったが、彼が残した作品は静物画を中心に高い評価を受けているらしいということが判った。T氏は叔父のアトリエに集まっていた画家たちの中では数少ない美校(美大、藝大)出の画家であった。彼はいつも奥さんを伴って西欧に写生旅行に出かけていたと叔父がよく話していたのを覚えている。80代前半で亡くなったことが判ったが、それ以上の情報は得られなかった。最後にK氏であるが、この人は優しそうで優雅な感じがする人だった。どこか避暑地に別荘を持っていたという話を聞いたことがあったが、インターネット上に名前だけは見つけたものの、生年も没年も確認することができなかった。ひょっとしたらまだご存命なのかもしれないと思ったりもした。もし誰かが今、私と同じようにして叔父の名前を検索したなら、きっとこのホームページに辿りつくことだろう。しかし、以上の四氏についてはホームページのようなものは見つからなかった。

叔父のアトリエによく集まっていた画家たちはみな絵を描くことを職業とする人たちであった。彼らは絵画の技法や画壇の在り方についてさかんに議論をし、展覧会に出品し、売り絵や貸絵や絵画教室の講師などで収入を得、とにかく画業によって生計を立てていたのだ。この人たち以外にも叔父のところに時々顔を出していた画家が何人かいたが、インターネットで彼らの名前を検索しても何の情報も得られなかった。彼らは「無名」のまま消えてしまったと言ってもいいのかもしれない。

 今、美術界で高値がつく作家はごく一部に過ぎないという。大部分の作家は他の仕事で収入を得ながら作品の制作を続けていると聞く。また、作家を世に出すのは画商の手腕だとも言われる。話は絵画作品の金銭的評価に移ってきたのだが、今回はいささか長くなってきたので、この話題は次回に譲ることにしたい。 (2018.8.24)

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