私の「エコール・ド・パリ」
- 西村 正
- 2018年11月19日
- 読了時間: 2分
更新日:2018年11月21日
叔父の思い出をいろいろ書いてきたが、書くことがもう思いつかないと思った途端に、思い出すことが一つまた一つと出てくるのは不思議でさえある。今回はその一つ、画集の思い出である。
世田谷の家の(家族はみな「画室」と呼んでいた)叔父のアトリエの隅には小さなテーブルがあって、その上に大小の画集が無造作に積み上げられていた。画集と言っても立派な装丁のものではなく、ほとんどページがバラバラになっているものが多かった。誰もいない画室は、幼い頃の私の遊び場にもなっていたので、私は時々面白半分にそれらの画集を眺めることがあった。その中に、表紙に「エコール・ド・パリ」と書かれたものがあって、いろいろな画家たちの絵が載っていたからだと思うが、その画集は、その不思議なタイトルとともに私のお気に入りになっていた。中でもモディリアーニの描く縦長の人物画には妙に惹かれるものがあった。モディリアーニについては叔父と話をした記憶もある。叔父が「自分も若い頃はモディリアーニが好きだった」と言うのを聞いて何だか嬉しかったのを覚えている。今思うと、その後の私の洋画の好みはほとんどその画集に遡ることができると言ってよい。しかし、引っ越しの時だったのか、それらの画集はごく一部を除いてほとんど処分されてしまった。探してみたが、私の「エコール・ド・パリ」はもう見つからなかった。 (2018.11.19)
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