『絵画の見かた---画家と美学者との対話---』を読んで
- 西村 正
- 2018年9月1日
- 読了時間: 2分
更新日:2019年2月10日
1953年に岩波新書の一冊として発行された、美学者・矢崎美盛(ヨシモリ)と画家・中村研一の対談集である。そういう本があることは知っていたが、実際に入手して読んだのはこれが初めてであった。二人は1895年生まれで同い年だから、お互い「中村君」「矢崎君」と呼び合っている。それはともかく、この本を読むと当時の美術界の様子が伺えて参考になる。私はこの本から多くのことを教えられたが、その一つは、叔父がそのエッセイの中で繰り返し強調している「ヴァルール」という言葉はその当時の流行語の一つであったらしいということだ。
しかし、あるとき個展会場で熱弁を振るう叔父に、その画廊の担当者が「西村先生はいつもヴァルールですな」とやや冷やかし気味に言っていたことを考えると、ヴァルールという概念はその当時にして、もうすでに世間一般では忘れ去られた概念だったように思われた。しかし、たとえそうだとしても、ヴァルールをはじめとする絵画技術に関する諸概念がその意義を失ったということでは決してないだろう。叔父のエッセイの中でも繰り返し強調されているが、叔父は絵画の技術というものを非常に重視し、その研鑽に努めていた。ほぼ70年に渡る画業の中で、頑ななほどに写実絵画にこだわり続け、その興味が抽象絵画に向かうことも、油彩画以外のものに向かうこともなかった。
この度、矢崎美盛、中村研一両氏の対談集を読んでみて、私はその中に叔父の声を聞くような気がしたのである。叔父が当時この本を読んだかどうかは判らない。しかし、西村俊郎が、師である中村研一氏と信条を同じくしていたことは間違いないと私は確信したのである。 (2018.9.1)
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