top of page

何を描いた絵か?---阿部合成『見送る人々』から考えたこと

  • 執筆者の写真: 西村 正
    西村 正
  • 2021年2月11日
  • 読了時間: 2分

朝日新聞 2021.1.19夕刊「美の履歴書681」より


 阿部合成(アベ・ゴウセイ/マサナリ、1910—1972)の代表作とされるこの絵は1938(昭和13)年に描かれた。タイトルは『見送る人々』。F100号の大作である。出征兵士を見送る人々の様々な表情だけを描いたこの絵に何を感じるかは観る人に委ねられていたのだろうが、言論統制があった戦時下においては権力者の解釈が全てに優先された。曰く、「退廃不快の印象を与え、日本人とはどうしても思えない」と批判された。そして反戦画家とみなされて官憲にマークされ、画壇でも疎んじられることになったという。

 私は以前にこのブログで、叔父・西村俊郎の師でもあった藤田嗣治の戦争画『アッツ島玉砕』と『サイパン島同胞臣節を全うす』について「2点とも悲惨な場面であり、とても戦意高揚を目指したものとは思えない」「むしろ反戦的とさえ思えるものである」と感想を書いたことがあったが、藤田は当時すでに軍部から認められてそれなりの地位についていたことを考えれば、私が感じたような解釈をもって批判されるような心配はあり得なかったのだろう。特権的な人でもない限り理不尽な扱いがまかり通るのが戦時下というものなのか。実にやり切れなさを感じる。

 ところで、メッセージ性やストーリー性といったものは絵画の一要素には違いないが、それらがなくても作品は成立しうるものだと思う。西村俊郎の場合は、そういったものを追求するよりも、美に対する感動をどう再現するかということに腐心し続けてきたのだろう。それでも人物画には多少のストーリー性が感じられるものがある。そんな点について叔父と話をしてみたかったと、ふと思うことがある。(2021.2.11


Comments


このサイトは洋画家・西村俊郎の作品を紹介するためにつくられました。画家の親族によって管理・運営されています。

CONTACT

ご感想、お問い合わせ等は

このCONTACTフォームよりお寄せください。

Feel free to email us from this CONTACT form. We can answer each mail.

メッセージを送信しました。

Copyright © 2018 NISHIMURA Toshiro WebGallery All Rights Reserved.

bottom of page