「作者不詳」か? 仲田好江か?
- 西村 正
- 2022年1月1日
- 読了時間: 3分

「ざくろ(仮題)」(M6号)制作年不詳

右下に書かれたサイン
これは友人に貰った絵である。実はもう20年以上も前から私はその友人宅に掛かっていたこの絵に心惹かれていた。それが先日ひょんなことから、この絵を貰えることになったのである。友人によれば、この絵はある絵画市で額縁付きで購入したもので、右下には「Y.nakada」というサインがあるのだが「作者不詳」なのだという。サインのとおりなら作者は仲田好江という可能性があるが、それを作者不詳と言うからには、贋作かもしれないということなのか? その辺りをどう考えたらいいのか私にはわからないが、実は私にとっては作者は誰であってもいいのである。しかし、もし仲田好江の可能性があるのなら、仲田好江という画家について知りたいと思い、画集を探して購入した。
仲田好江は1902(明治35)年に大阪に生まれ、幼少期に芦屋に転居した。そこで小出楢重に出会い、さらに小出の紹介で安井曾太郎に師事した画家である。本名は三島菊代。1927(昭和2)年に美術評論家の仲田定之助と結婚。1951(昭和26)年に好江と改名してサインもK.nakadaからY.nakadaに変えている。初めは二科会に出品。後に一水会に出品するようになり、同会の常任委員まで務めた。静物画を得意とした。1995(平成7)年に東京・三鷹で93歳で亡くなっている。西村俊郎より7歳年上である。
【※仲田好江作品の写真はすべて『仲田好江画集』(1986年)を接写しました。】

① 仲田好江「室内(小出邸)」1925年、P25号
画集の巻頭を飾る作品である。画家としてごく初期の作品であり、仲田はこの絵について「最初の絵が、その人の一生の仕事につながっていることも本当です」と書いている。

← ②「静物」1950年、F30号

③ 「青いレモン」1965年、F30号
私は②の絵の机の下に見える壁を塗った筆触が「ざくろ」の絵の筆触に似ているような気がしている。また、③の絵の構図が「ざくろ」の絵の構図に似ているように感じるのであるが、どんなものだろうか。
私が入手した『仲田好江画集』は1986(昭和61)年、画家が84歳の時の発行である。そこには画家自身が書いた「私の静物画技法」という文章が載っている。それは1959年に発表したものの再録だが、その中で仲田はこう書いている。「静物画と言うものは、その作家の生活から生まれるものだと思います。(中略)絵は構成と色彩で成立しているのですから、何と言っても色彩のヴァルールを追求することは大切でしょう」。「ヴァルール」は西村俊郎が決まり文句のように繰り返していた言葉だが、叔父とほぼ同世代の画家の口から同じ言葉が飛び出したことに私は納得するものを感じる。
残念ながらこの画集の中に同じ絵を見つけることはできなかったし、作者を仲田好江と断定することもできないが、この「ざくろ」の絵は依然として私を惹きつけて已まない。西村俊郎の作品にはないM6号という「海景」=横長のプロポーションであることも理由の一つなのかもしれない。いずれにしても私はこの作品を末永く愉しんでいきたいと考えている。(2022.1.1)
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