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「幻の本牧八景」@横浜本牧絵画館

  • 執筆者の写真: 西村 正
    西村 正
  • 10月26日
  • 読了時間: 3分
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 今回は私の思い出話から始めたい。私が生まれ育った東京都世田谷区は多摩川をはさんで神奈川県と隣接しているが、子供の頃あまり遠出をしたことがなかった私にとって多摩川を越えて他県へ行くということは一種の冒険とも言える体験であった。多摩川の向こう側は神奈川県川崎市であるが、そのさらに向こうには横浜という街があり、そこは何か特別なエキゾチックな雰囲気を持った場所であることは子供でも知っていたのである。

 父に連れられて初めて横浜に行ったのは小学生の頃だったと思う。世田谷区民会館前からバスに乗って田園調布に出て、そこから東横線で当時の終点・桜木町へ。そこから山下公園へ行った。氷川丸近くの波打ち際の階段に蟹がいたことだけよく覚えている。つまりそこが私にとって横浜の象徴なのであった。もちろん将来自分が横浜市の教員としてこの街で働くことになり、さらには家族とともにこの市内に住むことになるとは夢にも思わなかった。

 現在、横浜市には18の行政区があるが、私の5校目の勤務校は市の中心部である中区にあった。中区には港があり公園があり、官庁街も繁華街もある。観光客も多く外国人も多い。おそらく最も横浜らしい場所と言えるだろう。私の勤務校は中華街に近い夜間定時制高校だったので、居ながらにして昼間の活気と美しい夜景を眺めることができた。思えば、それは楽しく充実した5年間であった。そんな私は中区のことをずいぶん知っているつもりであったが、実は元町に近い麦田のトンネルの向こうに広がる本牧地区のことはほとんど知らずに来たのであった。本牧には有名な庭園・三渓園があることは知っていたが、桜木町~関内~石川町までの一帯に比べれば、私は本牧をほとんど知らなかったと言ってもよい。ただ私が知らなかっただけで、実は本牧は三渓園があることからしても、古くから風光明媚で知られた土地なのであった。だから「本牧八景」と呼ばれた景勝があったことも頷ける。さあ、ここで、やっと本題にたどり着いた。


「八王子秋月」&「三渓園晩鐘」
「八王子秋月」&「三渓園晩鐘」

「和田山夕照」&「宮原帰帆」
「和田山夕照」&「宮原帰帆」
「二の谷落雁」&「間門暮雪」
「二の谷落雁」&「間門暮雪」
「小港夜雨」&「十二天晴嵐」
「小港夜雨」&「十二天晴嵐」

※霜鳥忍氏による「本牧八景」再現模写作品(絵葉書を接写)


 横浜本牧絵画館は当ブログの記事でもすでに紹介したことがあったが、今回の展覧会は、「本牧八景」をわずかな資料をもとにして再現を試みたものである。「幻の本牧八景」と銘打たれたゆえんである。 本展で取り上げられた「原画」は昭和8年(1933年)に画家・小島一谿(イッケイ)氏によって描かれたものであるが、実はこの作品自体は同氏による「本牧八景」であり、しかもその原画さえもが所在不明なのだという。本展の見どころは、①戦前の雑誌記事で紹介された小島一谿作品の小さなモノクロ写真をもとに写真家・中林正幸氏がコンピュータによって彩色加工を試みた「本牧八景」と、さらに②現役画家・霜鳥忍氏がイメージを膨らませて再現模写した「本牧八景」。本牧の地に建つ同館ならではの本牧愛あふれる展覧会だと感じた。会期は1/18まで。 (2025.10.26


※展覧会タイトルの左側は彩色加工した写真作品、右側に見えるのは再現模写作品
※展覧会タイトルの左側は彩色加工した写真作品、右側に見えるのは再現模写作品

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