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『ペルシャン・レッスン--戦場の教室』を観て

執筆者の写真: 西村 正
西村 正
2022年11月20日
読了時間: 3分

                  (Persian Lessons ロシア、ドイツ、ベラルーシ)


 久しぶりに映画館に行った。コロナ禍が始まって以来初めてかもしれない。芸術関係者もコロナで大打撃を受けているが、このところ絵画や陶芸、書道等の展覧会案内状が頻繁に届くようになった。状況が完全に回復しているとはとても思えないが、開催者の熱意を思えばできるだけ会場に足を運びたいと思っている。そんな矢先、ふと新聞の映画紹介で目に留まったのがこの映画であった。

 第二次世界大戦末期のフランスが舞台である。ナチスの親衛隊に捕まった一人のユダヤ人青年が、森へ連行されて射殺されるところをひょんなことから免れる。連行途中のトラックの中でサンドイッチと交換で手に入れたペルシャ語の学習書がこの青年の運命を変えていくのである。ドイツ兵の一人が上官から「ペルシャ人を探して連れて来い」と命令されていたのだ。青年ジルは咄嗟の機転で「自分はユダヤ人ではなくペルシャ人だ」と言い、その本を持っていることが証拠だと主張するのである。

 ペルシャ人を連れて来いと言った親衛隊将校の意図がペルシャ語を習うことだと知ったジルは、自分もペルシャ語を知らないにも拘わらず、生き延びるために収容所の調理場を統括しているその将校に「嘘のペルシャ語」を教えていく。実は私がこの映画を観たいと思ったのは「嘘のペルシャ語」をどうやって考え出すのかというところにあったのだが、興味はいつの間にか、この二人の「教室」のなりゆきに向けられていた。実はこの将校にはテヘランに兄がいて、戦争が終わったらテヘランに行ってドイツ料理店を開きたいという夢があったのだ。しかしその考え自体がナチス体制下のドイツでは好ましいこととは見られていないことが次第に明らかにされていく。ジルの素性を疑い時に暴力を振るいながらも、自分の教師として特別待遇をしながら、懸命に嘘のペルシャ語単語を覚えては幸せそうな表情で復唱してみせる将校に私は憐れみと感動すら禁じ得ないのであった。しかし将校は、連合軍が迫ってきて収容所の閉鎖が決まる中でジルを連れて逃亡する。この二人それぞれのラストシーンは胸に迫るものがある。空港に辿りついた将校は民間人を装って、ジルに習った「ペルシャ語」で切々とテヘランへ行きたいと訴える。一方、連合軍に保護されたジルは収容所の犠牲者の人数について尋ねられ、数千人一人ひとりの名前を延々と語りだす。「嘘のペルシャ語」単語は彼ら一人ひとりの名前を材料にして作り出され、それらは一人ひとりの表情に見た「意味」と結びついていたのであった。

 私がヨーロッパ映画を観ていて最も感心するのは、俳優がフランス語、ドイツ語などを自然に使い分けていることだ。この作品でも他にイタリア語と、わずかに英語が登場する。ジルも「ドイツ語が話せるか?」と訊かれてからはフランス語からドイツ語に切り替える。そういう言語文化圏なのだと言ってしまえばそれだけのことかもしれないが、それを見ているだけでも≪感じるもの・得るもの≫は大きい。 (2022.11.20)


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