ホキ美術館を訪ねて
- 西村 正
- 2023年4月16日
- 読了時間: 3分

これは写真ではありません。ホキ美術館で開催中の「Let’s Travel!—絵の中を旅しよう!」と題する企画展に出品されている油彩画(大畑稔浩≪仰光—-霞ケ浦≫2008年)です。
【この写真は同展のチラシ1面を接写。同展の会期は2023.5.21まで】
ホキ美術館は「現代日本の写実絵画」を専門とする美術館として2010年に創設者・保木将夫氏によって開館された。西村俊郎は、そのエッセイの中でも「写実」という言葉を繰り返し使っており、実際「写実技法の追求」を生涯の目標としていたわけだから、私としてはこの美術館の存在を知ってから長い間ずっと一度訪ねてみたいと思い続けていたのだが、今月に入ってやっとその機会を得たのであった。同館の所在地は千葉市だが、かなり外房に寄っており、横浜からは東京都内を通るにしろ東京湾アクアラインを使うにしろ、車で行くには魅力的なドライブコースであった。美術館の佇まいも施設もなかなか魅力的である。建物は三層になっており、入口は1階だが敷地の高低差を利用して展示室は「地階」に向かって進んでいくように設計されている。
ギャラリー1 は風景画の企画展である。多数の風景画が展示されているが、どの作品においても一瞬、写真と見紛う緻密な写実表現に圧倒される。どうしてこんなに写真のように緻密に描けるのだろうか?!と不思議に思う。大した技術だと思う。もっとも、以前テレビ番組で画家が水彩絵具やパステルを使って写真かと思うほど緻密に描いているのを観たことがあったので、細密表現に適していると言われる油絵具でそれができるのは当然かもしれないとは思ったが、作品の大きさを考えると一体どれだけの時間を要したのだろうと気が遠くなるような思いがした。しかし同時に、これは西村俊郎が言う写実とは違うような気がしたのも事実であった。

ギャラリー2 は人物画であった。こちらも写真と見紛うような緻密な写実表現を特徴とする作品が並んでいるが、風景画ほどには違和感を感じないような気がした。人物画では以前から緻密な感じの写実表現を見慣れてきたせいかもしれない。同館で買い求めた『写実絵画とは何か?』という本の中に、スーパーリアリズム、フォトリアリズム、ハイパーリアリズムなどと呼ばれる作品についての記述があるが、「(それらは)写真を使い、それを画面に投影して、その上からエアブラシなどで顔料を吹き付け、速攻で仕上げていく、写真そっくりの絵をさします。画面は印刷物と同じ、点の集合になっており、こうした作品は比較的短時間で仕上がります。一筆一筆丹念に描いていく写実絵画とは全く異なり人間の主観や感情を入れないもので、現代アートとして一九六〇年代以降、アメリカを中心に描かれています」(p.12—13)と説明されている。同館に展示されている作品は「スーパーリアリズム」と呼ばれるものとは違います、ということであろう。
こうして見ると、一口に具象や写実と言っても実はいろいろなジャンルがあるようだ。そう考えたとき私は昨年の秋にある会場で聞いた話をふと思い出した。それは中国に留学した韓国人画家・白允生(ペク・ユンセン)氏が紹介してくれた話である。この人は朝鮮語はもちろん、中国語も日本語もできる人であるが、彼が中国留学中に知った中国画壇の大家・齊白石(1864—1957)(中国中央美術学院教授)の言葉として、(原文)作画妙在似与不似之間, 太似為媚俗, 不似為欺世。(日本語訳)絵画の巧みさは、似ているか似ていないかの中間にある。似すぎているのは俗人に媚びていることになるし、似ていないのは世間を欺くことになる)というものである。 (2023.4.16)
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