二つのブルターニュ展
- 西村 正
- 2023年7月14日
- 読了時間: 3分

国立西洋美術館(上野) SOMPO美術館(新宿)
会期をほぼ同じくして東京で二つの「ブルターニュ展」が開かれた。
私が「ブルターニュ」に興味をもった理由は、一番には西村俊郎にもブルターニュを描いた作品「引き潮(ロリアン)」があるからだが、実はその前から玉村豊男のエッセイ『パリのカフェをつくった人々』によってこの地に惹かれていたからでもある。私が二回目にパリに叔父を訪ねた時、それはちょうどクリスマスの時期であったのだが、たまたま同時期に日本からやって来た友人たちとパリで落ち合って、一緒にカフェで生ガキを食べながらワインを楽しんだことがあった。大体私は独りで街を歩き回る時はほとんど屋台のクレープを立ち食いしたりビールを立ち飲みしたりして昼飯としていたのである。玉村氏の本によると、生ガキもクレープもブルターニュ出身者によってパリのカフェにもたらされたものなのだという。
さてフランス地図にあるようにブルターニュはイギリスに寄った大西洋に突き出した半島で、歴史的にもフランスに統合されたのが遅く、パリなどから見ると「辺境」として風土的な厳しさと土俗的な異文化性が感じられる土地であったらしい。両展とも展示作品はほぼ百年前のものが中心で、ターナーやゴーギャン、モネなど西洋人画家の作品ばかりでなく黒田や藤田など日本人画家の作品も観ることができた。ブルターニュは漁業が盛んな土地であり、海難事故の犠牲者も多かったようだ。SOMPO美術館のポスターは難破船にすがって息子を抱き寄せる父親を描いた作品(ギュー「さらば!」1892年)の一部分である。


(左):ブルターニュ地方5県の位置
(上):モルビアン県ロリアンの位置(数字59が見える所)


西村俊郎「引き潮(ロリアン)」1985年頃 ブーダン「トリスタン島の眺望、朝」1895年
西村俊郎がブルターニュを描いた作品は、この10号ともう一点同じ場所を描いた15号がある。他にブルターニュ関連の作品は今のところ確認できていない。この絵は2021年の「私の愛する一点展」(東御市梅野記念絵画館)にも出品した。雰囲気は、今回の国立西洋美術館のブルターニュ展に出品されていたウジェーヌ・ブーダン(1824—1898)の作品に似ているような気がする。これが天候穏やかな日のブルターニュの海なのだろう。

(左):コッテ「夕べのミサ」1902年頃

藤田嗣治「十字架の見える風景」1920年頃
両展とも多くの作家の魅力的な作品で溢れていたが、ここでは私にとって特に印象深かった作品を2点だけ紹介したい。一つはシャルル・コッテ(1863—1925)の「夕べのミサ」。コッテの作品は何点も出品されていたが私はなぜかこの絵の前で釘付けになった。そして、もう一点は藤田の「十字架の見える風景」。いずれの作品も《無言の感じ》が観る者の想像力を掻き立てるような気がしたのである。 (2023.7.14)
Comments