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猪熊弦一郎展@横須賀美術館

  • 執筆者の写真: 西村 正
    西村 正
  • 2022年11月5日
  • 読了時間: 3分

 私がある画家を取り上げてブログ記事を書くのは、叔父との比較において参考になるからであって、その画家の一般的な評価とはあまり関係がない。したがって、どうしても叔父と同年代またはかなり上の世代の画家を取り上げることになる。今回の猪熊弦一郎も例外ではない。猪熊と言えば、以前、当ブログの記事「あゝ上野駅」で紹介した中央コンコースの壁画が私の唯一知っている作品であったが、この画家が叔父より7歳も年上であるということを知って以来、私は彼の作品を体系的に観ることができる機会を待っていたのである。その意味で、今回の横須賀美術館「開館15周年 生誕120年 猪熊弦一郎展」は私にとって待望の企画であった。 (※作品の写真はすべて同展図録から接写)

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    「海と女」1935年             「長江埠の子供達」1941年


 猪熊弦一郎(1902—1993)は香川県高松に生まれ、18歳で上京して岡田三郎助主宰の本郷洋画研究所(後に本郷絵画研究所と改称)で学んでいる。ここにも西村俊郎との共通点がある。その後彼は東京美術学校に入学して藤島武二に師事するが5年後に中退している。帝展に入選し、光風会の会員となるも6年後には脱退し、仲間とともに新制作派協会を結成する。その後36歳で渡仏し、ニースでマチスに会ったとき「君の絵はうますぎる」と言われたことにショックを受けたというのである。彼はマチスの言葉を「君の絵には個性がない」という意味であると理解したのであった。マチスの他にも、彼はピカソや、後にはイサム・ノグチなどとも交流があり、それらの人々から大いに感化を受けている。それによって彼の画風は大きく変わっていくのである。1940年代に帰国後は軍に協力して戦争記録画を描いた時期もあるが、戦後は社会との関りを重視した作品に取り組んでいく。先に紹介した上野駅中央コンコースの壁画「自由」はそのような中で制作されたものなのであった。

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上野駅中央コンコースの壁画「自由」の原画 1951年



← 「緑蔭」1946年



 1955年、猪熊は米国経由でフランスを目指して出発するが、そのまま20年に渡ってニューヨーク市に滞在することになる。彼はこの都市にすっかり魅せられたのであった。彼はニューヨーク滞在時代に次のような言葉を残している。


「何とか払いのけようとあがき続けた具象の影はこの街でゴソッと落ちてしまった。楽に気持ちよく仕事ができるようになった」


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                驚く可き風景(B) 1969年 

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← 『小説新潮』表紙絵(タクシー)   1960年


 この言葉どおり、彼の画風は抽象へと変わり、その後包装紙のデザインや本・雑誌の表紙絵、着物の絵柄等も手掛けるようになっていく。1975年以降は、90歳で亡くなるまでハワイと日本を行き来して制作活動を続けた。

 私としては彼の渡米以前の作品の方が好きなのだが、この画家の決してひとところに留まらない旺盛な関心には正直、圧倒させられるものがある。西村俊郎とは90歳で亡くなったことまで同じだが、叔父にはこのような冒険的とも言える画風の変化は見られない。逆に言えば、そこが西村俊郎の特徴なのだろう。しかし叔父が中国や米国に関心を向けなかったのは私としては非常に残念なことである。


 これは一般論だが、何かを学ぶときに「いい学校へ行ったほうが良い」とはよく言われることだが、それは、そのようなところへ行けば良い先生がいて良い教育を受けられるということもあるかもしれないが、それよりも大事なことは、そこでは個性的で面白い生徒に出会える機会が多いということではないだろうか? さらに、その出会いから何かを学べるかどうかはその人次第であろう。学校教師を仕事としてきた私は、今振り返ってみて痛切にそのことを感じている。 (2022.11.5


※横須賀美術館「開館15周年 生誕120年 猪熊弦一郎展」は11/6まで。



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